2012/9/29 (土)
動く轆轤(ろくろ)の動かない芯
私は下戸であるのに、薩摩焼15代沈寿官の黒千代香を持っている。写真のようなものだが、毎年、年始に愛用している。それは、先代沈寿官氏にまつわる次のような出来事に深く感銘してのことである。1993年、小田中学校の少年式の式辞から引用する。
(前略)鹿児島県苗代川に住む薩摩焼14代当主沈寿官さんは、小学校入学式の日に、ろくろ始めの儀式をしてもらっています。寿官さんは、お父さんのろくろの脇に立たされ、ろくろに注意するようたしなめられます。お父さんは一蹴りして「どうだ」と問いかけます。幼い寿官さんは「よく回ります」と答えると、今度は陶土を親指の先端ほどの大きさに丸め、ろくろの中心にしっかりと据え、仕事着の胸の先に刺していた縫い針を抜き取り、注意深く陶土の中央にその針を立て、またろくろを蹴りました。「不思議なことをするなあ」といぶかる寿官少年に「今度はどうだね」と尋ねました。「よく回ります」と同じ答えを返すと、「針はどんな具合かね」と聞きます。よく見ると、ろくろは回っているが中心に立てられた縫い針は微動だにしない。そこで、「ろくろは回りますが針は動きません」と答えると、お父さんは満足そうにうなずいて静かに次のように話されたというのです。
ろくろの真っ芯に陶土を置く、そして陶工の指が陶土を透かしてろくろの芯をしっかりととらえた時、陶土は魔法のように伸びて陶工の心のままに形作ることが出来る。動くろくろに心を動かすな、動かない芯に心を張りつけよ・・・と。
簡単な儀式であったのに、寿官少年は口に言えないほど強烈な感動が体の中からたぎりたち、以来、生涯のテーマとなります。(後略)
動くものが表面に現れる諸々の現象とすれば、動かない芯はその底にある真理・真実・本質とでもいうべきものだろう。私も大学時代からは、そんなものを捜してきたような気がする。見つかっていないものが多いのではあるが。
作成者 tsurarenaisakana1 : 2012/10/5 (金) 13:39 [
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