2012年10月29日月曜日

前向き・後ろ向き

2012/9/29 (土)

前向き・後ろ向き

 スウェーデンの言語学者、ヘレナ・ノーバーグ・ホッジさんに、「ラダック 懐かしい未来」という著書がある。私は、この本は読んでいないが、映画「懐かしい未来 ラダックから学ぶ」を見て、大変心を打たれた。ヒマラヤ山脈西端にあるラダック地方の、近代化に染まらない1980年代までの村の暮らしと、その後、近代化(グローバル化)によって、「あれほどの輝きと生命力、そして世界の中心にいるのだという誇りを持っていた人たちが、開発の物語の中で、強大な科学技術の力の下に組み込まれ、お金を中心としたシステムの文脈におかれた結果、今では自尊心を失い、『辺境に押し込められている』という劣等感に苦しみ、しょげかえってしまっている。」(『いよいよローカルの時代』)状況が対比的に描かれていた。
 彼女は、グローバル化に対してローカリズムを提唱するのだが、グローバル化が進めば、文化も人も単一化する。資源が無駄に使われ、環境も汚染される。危機を打開するには、経済を小さい単位にしていくことだという。『愛媛新聞』は昨年4月19日に彼女の活動を紹介し、つい最近、9月5日には、ラダック人と結婚して1女を生み3人で暮らす池田悦子さん(37)の生活を紹介している。「昔ながらの自給自足社会が変化しつつあるラダックで、古民家を再生することから新たな生活を始めた」池田さんは、「古いものを捨て便利さだけを追求する考え方から踏みとどまりたい」と語っている。
 今、私の手元には、ヘレナさんと辻信一さんの共著『いよいよローカルの時代』がある。その序文に、辻さんはこんなことを書いている。スローライフの講演をすると、それって、過去に戻れということじゃないですよね?といわれるそうである。「前向き」「未来志向」「頑張る」など「前へ進むものとしての人生」でしかとらえられなかったから、「懐かしさ」という価値がおとしめられてきたのだと辻さんは分析する。その「後ろ向き」ととらえられる「懐かしさ」とこれから進む前にしかない「未来」という背反する二つの言葉をつないだ『懐かしい未来』は、私もはじめはいぶかった。ドキュメンタリー映画を見てすぐ分かったことではあるが。
 ヘレナさんはこういっている。私たちは、たとえ望んでも、後戻りは出来ない。調和を踏みにじってきたこれまでのやり方はすでに破綻しており、未来があるとすれば、それはあの懐かしさに満ちたあの調和の中にしかあり得ない。そこへ回帰することであると。
 いいものに戻すことは、「後ろ向き」「後戻り」というより、回帰というべきなのだと思った。
  参考文献 ヘレナ・辻信一『いよいよローカルの時代』大月書店
       地図は『愛媛新聞』2012.09.05
作成者 tsurarenaisakana1 : 2012/9/30 (日) 19:55 [ コメント : 0]

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