「茶色の朝」という本がある。「愛媛新聞」は2004年4月10日に、文化欄で大きく紹介した。日本語版は50ページにも満たない薄い本である。もとはフランスでベストセラーになったもの。茶色はナチスの制服の色で、ファシズムや全体主義の象徴である。著者はフランスの心理学者フランク・パブロフ。ヨーロッパで急速に台頭してきた極右勢力に抵抗する意味を込めて執筆したという。 これは寓話であり、全てが茶色になっていく、全てが茶色でなくてはならない国の物語で、茶色以外のペットが禁じられ安楽死させた友人のことを知った主人公は違和感を覚えるが聞き流す。「街の流れに逆らわないでいさえすれば、安心が得られて、面倒に巻き込まれることもなく、生活も簡単だ」と流れに乗って暮らす。小さな譲歩を重ねていくうちに批判的な新聞や本が廃刊になり、住民相互の監視も強まり、続々と逮捕者が出始めた。 みんなそうしているのに変わったことしない方がいいとする、町や村の普通の人に見られる自己保身の姿だが、笑えない。自身の姿でもあるから。景気後退や高い失業率など社会不安があると、威勢のいい人の言動や強力なリーダーシップを持った人に引きずられ、自分自身の考えを捨ててしまう。それが悲劇的結末を迎えたことは、ナチに支配されたヨーロッパだけでなく、日本でも国家主義の風潮が大きくなり、東アジアを中心とした諸国民への加害と自国民への被害が甚大であったことは記憶に残っていよう。
今回の衆院選で「改憲」というより「壊憲」という勢力の台頭は、1930年代のドイツを彷彿させる。 1928年のドイツではナチスが2.6%の得票だったが、30年の選挙で18.3%、33年3月の選挙では43.9%、33年11月の選挙ではナチスのみの出馬で92.2%、独裁体制となっていく。「民意」はフアッとしたとりとめのない存在にもなり、時に暴走さえする。その再来にならないよう、私たち一人ひとりが、見解の異なる人と対話し、賢い民主主義者にならなければならない。
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